2人だけの秘密。
そして、それから数日が経ってようやく異動の日がやってきた。
当日はさすがに緊張したけど、従業員はわりと仕事が出来る子達が集まっているみたいだし安心した。
「…柳瀬くんって、眼鏡してたっけ?」
前の店長である鈴木店長はそう言って首を傾げるけど、俺は「まずい」と思いながらもその言葉に頷いた。
「そ、そうですよ。これがなきゃ見えなくて」
「ふーん…?」
そう言ってるけど実際は誠実そうに見せるための眼鏡だし、何としてでも中身は見せたくない。
そして、そう思っていると…その時、初めて現実で鏡子に会った。
「…あ、五十嵐鏡子です。よろしくお願いします」
当たり前かもしれないけど、現実の鏡子は夢の中と全く同じだった。
たぶん違うのは、俺の方。
だけど意地でも誠実にふるまっていたら、その日の昼休憩の時に外でタバコをふかしていると突然鏡子がやって来た。
「…あ、五十嵐さん」
あまりの突然の登場に、思わず持っていたタバコを落としそうになる。
…鏡子は俺みたいなヘビースモーカーをどう思うだろうか?
内心、ヤバイ!と思っていたけど…出て行こうとする鏡子をなんとか引き留めた。
でも、引き留めたはいいものの…沈黙が続く。
聞きたいことや言いたいことはたくさんあるのに、それを言葉に出来ない。
そうしているとやがて仕事に戻る時間になって、俺は売り場に戻ろうとした。
……しかし。
「あ、まっ…待って下さい!」
何故かその瞬間、鏡子にそれを引き留められた。
「え、えっと…柳瀬店長、以前にあたしと何処かでお会いしませんでしたか?」
そして鏡子は俺にそう聞くと、首を傾げて俺を見る。
だけど俺は突然のことにビックリして、誤魔化してしまった。