2人だけの秘密。
ふー…危なかった。
そう思ってドアを閉めると…、
「!」
さっきまでいた外から、携帯の着信音が聞こえて来た。
その音に歩く足を止めると、外で鏡子が言う。
「もしもし、広喜くんっ?」
は…
「うん、来て来て!ご飯作って待ってるから!」
鏡子は嬉しそうにそう言うと、電話を切った。
思わぬ男の名前に、俺は一瞬にしてその場に固まる。
…鏡子、彼氏いたのか。
しかも凄い幸せそうだし、なんかムカつく。
でもよくよく考えたら鏡子にだって彼氏がいてもおかしくないし、むしろ可愛いからいて当たり前だとも思う。
だけどまさかこの時は鏡子が凄く寂しい思いをしているとは知らずに、その場を後にした。
そしてその後、鏡子が彼氏と会わないようにわざと残業も用意して、たいしてしなくてもいい仕事を任せた。
そしたら鏡子は案の定どこか不満そうにしていたけれど、俺はそれに気づかないフリをして仕事を続けるフリをする。
仕事がようやく終わると紳士ぶって鏡子を車に乗せ、店を出た。
でもやっぱり、せっかくのチャンスなんだからここで一気に鏡子との距離を縮めたい。
そう思って…
「……五十嵐さんってさ、」
「はい?」
「昼間、俺と何処かで会ったことがあるかとか聞いてきたじゃん」
「はい、」
「何処かでって…五十嵐さんは何処で俺と会ったの?」
昼間誤魔化してしまったことを、思い切ってそう聞いてみた。
だけど鏡子は、何故か目を泳がせて「忘れちゃいました」って言う。
しかもわりとすぐにマンションに到着してしまったらしく、それで話を誤魔化された。
…でも、行かせたくない。
だから、気が付けば俺は鏡子を引き留めていた。
「待ってよ」