2人だけの秘密。


鏡子は俺の突然の行動に慌てて抵抗するけど、今更もう止められるわけがない。

今日一日保っていた「誠実」もそろそろ限界に近づいてきたようで、夢の中と同じように鏡子にキスをしようとした。


…でも、次の瞬間、鏡子の携帯が鳴ってまんまと逃げられた。



「お、お疲れさま、でした。…あたし、帰りますね、」



そう言って、慌てた様子で車を出て行く。


あー、やってしまった…。


鏡子が出て行った直後、今更ながらにそう後悔してしまった。



その日からはなんとか鏡子と普通通りに接していたけれど、鏡子はやっぱりそうはいかないみたいで目すら合わせてくれない。

…鏡子の中で俺が「セクハラ上司」って定着してたらマズイな。

そう思っていると、夏木ちゃんが言った。



「明日、柳瀬店長の歓迎会をしたいんですが…」



その言葉を聞いて、俺は一つの賭けに出た。




そして歓迎会当日は鏡子を隣に座らせ、半ば無理矢理にビールを飲ませた。

本当は「お酒が苦手」だったらどうしようかな、って思っていたけれど思ったより事はスムーズに進んだ。

そしたら案の定鏡子はぐったり酔いつぶれてくれて、作戦は大成功。

事前に俺には彼女がいる、ってことも言っておいたし、「俺が鏡子ちゃんを家まで送るよ」と言っても皆は特に怪しんだりしなかった。

居酒屋を出るとタクシーに乗って、俺のマンションに向かってもらう。

到着したら目を覚まさない鏡子をおんぶして、エレベーターで上に上がった。


部屋に着いたら両手がふさがっているから頭で電気を点けて、そのまま寝室に入って鏡子をベッドに寝かせる。

意外とうまくいった作戦に独りほくそ笑むと、鏡子が寝返りを打って俺の方に体を向けた。



…あ、まずい、俺明日の朝まで理性持つかな…。




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