妖刀奇譚





実央が上履きに履き替えるのを待ってから、教室へ移動する。



「あっ、ねえ、あの噂聞いた?」



途中で実央が何か思い出した様子で言った。


知りたがりの來世が真っ先に食いつく。



「噂って?」


「男のあんたには全っ然心配のいらない噂よ」


「なんだよそれー、教えてくれてもいいだろ、けちー」


「実央ちゃん、『あの』じゃどの噂か分かんないよ」



綾乃が笑いながら言う。


彼女の動きに合わせて長い髪がさらりと揺れた。


今日もばっちり美髪である。



「あ、そっか、ごめん。えっとね……髪切り魔の噂なんだけど、知ってる?」



実央が少し前かがみになり、声のトーンを落とした。


來世と綾乃はまったく知らないらしく、顔を見合わせて首を傾げる。


昨日のことを思い出した思葉は、黙って実央の話を待った。



「かみきりま……って、何それ?」


「あたしも詳しいことは知らないんだけどさ、夜に髪の長い女の人だけを襲う、通り魔みたいなのらしいよ。


荷物を引ったくったり、けがさせたりってことはないんだけど、ただ、髪を切っていくんだって。


しかも、すぐに振り返ってみても誰もいないみたい」


「え……髪を?」




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