妖刀奇譚





親が創り出した狩野派という流派の2代目となり、それを発展させていったほどの絵師だ。


描いた画に何の想いも込められていない方が不自然である。


つまり、これは贋作だ。


思葉は目を閉じて長い息を吐いた。


偽物であることは分かった。


あとはこの悪徳セールスマンを追い払うにはどうすればよいか。


できるなら、2度とここへ販売に来ようと思わせないくらい恥ずかしい思いをさせてやりたい。



「で、ですが、こちらにちゃんと鑑定書もありますよ。


ほら、このお名前、ご存知ありませんか?


『鑑定倶楽部』という番組に出演されている」


「あーすいません、おれ見たことないから分かりません。


思葉、どうだこの絵?」



ハンカチを取り出して顔を拭いた長谷部が、ファイルから引っ張り出した鑑定書を來世に見せる。


だが來世は適当に流して、長考に耽っている思葉に声をかけた。


落ち着かない色を浮かべる長谷部の目も思葉に向く。


ちょっと揺さぶってやろう。


思葉の心に小さな意地悪が芽生えた。




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