妖刀奇譚





こういう連中には痛い目を見させるのが一番だ。


それがきっかけになって仕事を止めてくれればもっといい。


思葉はできるだけ最もらしく見えるように表情をつくって長谷部を見た。


目が合った瞬間、長谷部の身体が少しだけ揺れたのが分かる。



「長谷部さん、この掛け軸って本当に安土桃山時代のものですか?」


「はい?え、ええ、もちろんですよ。


何せあの有名な滝澤士門(たきざわ しもん)先生直々に鑑定していただきましたから」


「本当に滝澤先生に鑑定してもらったんですか?」


「はい?」


「だってこの紙の材質、どう見ても安土桃山時代のものじゃないですもん」


「……と、仰いますと?」


「長谷部さん、古美術商のくせに分からないんですか?」



ぎくっ!



思葉が嫌味をこめて言うと、長谷部の眉がぴくりと動いた。


いいところを刺したようである。


長谷部の答えを聞かずに思葉は話を続けた。



「紙だけじゃないですよ。


この台紙だって、パッと見古いけど品質はかなり現代に近いですし。


絵の紙は四隅がこんなに残っているのは不思議ですよ。


今世に出回っている安土桃山時代の作品は、絵自体に破損はなくても何も書いてない部分は破れたり日に焼けちゃったりしてひどいんですから。


あとこの絵、当時の墨で描かれたにしては濃すぎませんか?」




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