妖刀奇譚





「……玖皎には、玖皎には何も言わずに?


玖皎はあなたがそばにいてくれたことも、あなたがずっと見守ってくれていたことも、何にも知らないで千年も生きてきたんだよ?


成仏するんだったら、せめてあいつに会ってあげてよ。


もう二度と会えなくなるんでしょ?このまま会わずに行っちゃっていいの?」



琴の瞳がかすかに揺らぐ。


だが、それはすぐに諦めの情にかき消され、伏せられたことで確かめられなくなった。


紅をさしていない、薄桃色の唇が震える。



「……わらわには無理じゃ、言ったであろう。


わらわにはそなたのような力がない、玖皎に近づいても、声を聴くことも姿を目にすることも叶わぬ……それはあの子も同じ。


互いに互いの姿も声も分からぬのに会いに行っても、何の意味がないであろう?」


「そんなこと言わないでよ……あたしが、あたしが二人の間を取り次ぐよ」



思葉は唐突にひらめいたことを提案した。


伏せられていた琴の双眸がこちらに向けられる。



「あたしが玖皎に琴さんの言葉を伝えるし、玖皎が何か言ったら全部伝えるから……


だから、会いに行こうよ。


会ってちゃんとお別れを言って……向こうへ渡るのはそれからにして」



言いながら、琴の冷たい手を引っ張る。


けれども琴は拒むかのようにその場から動かなかった。


眉を八の字に下げて微笑む。




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