妖刀奇譚

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(……あ、一人になった)



昼休み。


読み終えた文庫本を開いたままちらちら教室の隅を観察していると、用事のある男子生徒がグループから抜けて廊下に出るのを見た。


思葉は本を机にしまい、自然を装ってあとを追いかける。


さほど人目を気にしないで行動する思葉だが、今回ばかりは気を配らなければならない。



「久保田くん」



購買スペースの自動販売機の前で声をかける。


もちろん、周囲に知り合いが誰もいないことを確認したうえでだ。


紙パックのカフェオレを取り出し、呼ばれた久保田が振り向く。


真面目な印象を与える眼鏡の奥にあるやや細い目が意外そうに開いた。


当然だ、入学してから半年過ぎるけれどろくに口をきいたこともないクラスメイトの女子にいきなり話しかけられれば、誰だって一瞬びっくりして何事かと身構える。


立場が逆だったら、思葉も同じような顔をしていただろう。



「なに、皆藤さん」


「ちょっと話があるんだけど、いいかな」


「……別にいいけど」


「あっ、言っておくけど、告白とかそういう色恋関係じゃないから安心して」




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