妖刀奇譚
落ちてしまった花の片付けは御手洗に任せ、思葉は焼却炉に向かった。
その隣はゴミ捨て場となっており、いくつかのポリバケツで分別している。
正しく捨てないと事務員の人に怒られてしまう。
以前どこかのクラスがルールをちっとも守らなかったので激怒され、しばらくゴミ捨てを禁止されたという事件があったらしい。
「えっと、ガレキ、ガレキ……」
できるだけ臭いをかがないようにしながら、思葉は『ガレキ』と書いてある灰色のポリバケツの蓋を開けた。
燃えるゴミのようにさらにひどい臭いがしないので助かる。
ビニール袋をほどいて中身を捨てようとして、思葉は一旦袋を降ろした。
花瓶の破片をじっと見つめる。
誰もいない教室、外に注がれる朝日の白っぽい光に照らされている教室がおぼろげに見える。
教室の後ろからの景色だろうか。
すると目の前に誰かが立った。
ぼんやりとしていて、男女の区別がつかない。
思葉は目を閉じた。
暗闇に、こちらへぐわっと伸びてくる手が見える。
その手に捕まる。
するとその人が立つ闇に視界が引き寄せられた。
学年カラーの青色のラインが走る上履きが端に見えた。
そして、陶器が砕ける耳に刺さる音が響く。
視界いっぱいに細かなヒビが入り、すぐに闇に融けて何も見えなくなった。
(今のは……)
もう一度、暗闇に目を凝らす。
ホームルーム開始のチャイムが鳴るまで、思葉はそこから動けずにいた。