【完】狂犬チワワ的彼氏


いつまでも独りでああだこうだ悩んでいるのは嫌だから、あたしは意を決すと直樹に言った。



「あたしね、」

「うん」

「夕べ、花火の途中で拓海くんと抜け出した時…拓海くんに、キスされたの」

「!!」

「そしたらなんか…ドキドキしちゃって逃げちゃったし、今日もどんな顔して拓海くんを見たらいいんだろうって…」



あたしはそこまで言うと、「はぁ…」と直樹の横で重たいため息を吐く。

その視線の先には、真剣にお肉を選んでいる拓海くんと芽衣の姿。


タンが欲しいとか、豚はいらないとか言ってる声が聞こえる。


そんな二人の様子を少し遠くから見ていたら、直樹が言った。



「べ、別にキスとか…恋人同士だったら普通だろ。お前そんなんでこれから大丈夫なのかよ」

「…大丈夫って、」

「だって付き合ってるからには、キス以上にもっと凄いこと…するんだぞ」

「!!」



そう言って、悪戯に笑って見せる。


た、確かにそうだけど……ヘンタイ!


そしてあたしが顔を真っ赤にしていると、直樹が突如あたしを拓海くんや芽衣の傍に連れて行って、言った。



「木塚、」

「?」

「悪いけど、ちょっと朝比奈(芽衣)借りるわ。その代わり、コイツお前にやる、」



直樹はそう言うと、顔を赤くしたままのあたしの背中をぐっと押して拓海くんとの距離を近づけさせる。

そして何気なく芽衣の手を握ると、少しビックリしている芽衣に気付かずに言った。



「俺ら、海鮮コーナー見に行くから」



そう言って、お肉のコーナーにあたしと拓海くんだけを残してその場を後にしてしまった。


わ、ちょ…直樹!!


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