domino
28
 フェラーリが3台停まっていた。
 それらのフェラーリが株式会社トランスライダーの目印だ。社長が大のフェラーリ好きらしく、ほとんどインテリアのようになっていた。そのフェラーリの輝きを見れば見るほど、どんどん僕は緊張していった。
 「やっぱり、代わりに来るのは止めれば良かったかな。」
 「ここの社長、気分屋で怒りっぽいって言うからな。」
 目の前にあるインターフォンを見つめながら、なかなか受話器が取れずにいた。
 「いくら何でも代わりはやっぱりまずかったよな。」
 「どうしたらいいんだ?」
 あの声に従うと決めたものの、やはりなかなか踏ん切りがつかなかった。なにしろ、ここの社長が僕の苦手な和田課長を僕の後輩へと格下げしてくれたくらいに、すごく怖い社長だと聞いていたからだ。
 「あのぉ。ちょっと良いスか?」
 そう言うと宅急便の人は僕を押しのけて受話器を取った。
 「ちわっ。集荷に来ました。」
 入り口のロックのはずれる音がして、彼は中に入っていった。その彼の行動を見た僕は、彼に背中を押されたかのように気持ちが楽になり、受話器を取って内線番号を押した。
 「プリンス日本の大河内と申します。鈴木社長はいらっしゃいますか。」
 「プリンス日本の大河内様ですね。入り口を入って突き当たりを右のA会議室でお待ちください。」
 ロックがはずれると、案内された通りにA会議室に向かった。そこまでの廊下の壁にはフェラーリの写真がいくつも飾られていた。
 「よほど、フェラーリが好きなんだな。」
 一瞬、彼女の事を思い出した。僕の顔は少し緩んでいた。
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