domino
29
 「君が吉原君かね?」
 少し不機嫌そうな第一声だった。
 かなりまずいと思った。こんなに機嫌が悪い時に代わりで来たと言ったらどうなるのか、想像するのも怖かった。
 「すみません。私、吉原の代わりで参りました大河内と申します。」
 名刺を差し出すと思った通り雲行きが怪しくなった。
 「なんか担当が替わったって聞いたけど、その担当も替わったの?」
 「うちの会社も嫌われたものだね。」
 しばらくの間、悪態が続いた。一通り言って落ち着いたのか、一息吸って唐突に話題を変えた。
 「ところで、大河内君だっけ?君、車好き?」
 すごい悪態の後だけにあっけにとられたが、ここでまた機嫌を悪くする訳にはいかないと思い話を合わせた。
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