domino
52
 「もえ。」
 鈴木友里は友達の小林もえに声をかけた。
 「どうしたの?急に話があるって。」
 ランチタイムに急に呼び出されたからだろうか、もえは少しびっくりした様子だった。
 「だって、なんかいい感じなんだもん。誰かに話したくて。」
 話したい衝動とまだ核心に触れたくないと言う微妙な狭間に友里はいた。その表情を見てもえは気になってしょうがなくなり友里を急かした。
 「何?何?早くしないとランチ終わっちゃうよ。」
 時計を見ていかにも時間がない風な仕草をした。
 「ごめん。ごめん。明日のポルノの事なんだけど。」
 もえは友里と一緒にポルノグラフィティのライブに明日行く予定だった。その話を今更してくるという事は、すぐにもえはピンと来た様子だった。
 「わかった。言わないで。当ててみる・・・。」
 彼女は軽く瞼を閉じた。
 「男でしょ。」
 あまりに簡単に答えを言い当てられて友里は面白くなかった。けれども、僕の事を考えるだけで楽しくなるらしく、気を取り直して話を続けた。
 「そう。なんかすごく話しやすいんだよね。だからなのかな、安心する。」
 友里のその言葉を聞いて、もえは驚いていた。彼女と友里は中学から大学まで一緒だった。ただ、一人っ子の友里と違いもえには兄がいて男の人と話をするのはごく普通の事だった。学生時代は何かあると必ずもえが助けていた。そんな友里から“話しやすい”なんて言葉が出てくる男が現れるとは夢にも思わなかったからだ。
 「どんな人なの?」
 一気にもえの興味は僕がどんな人物かという事に移ったようだった。その質問を聞いて、今度はさっきのお返しだと言わんばかりに、友里は答えをじらしだした。
 「う~ん・・・。」
 友里がわざとそうしている事をもえはよくわかっていた。そして、こう言う時どうすれば友里が簡単に教えてくれるのかも心得ていた。
 「ま、いいか。今度、教えてね。それでさ・・・。」
 友里の話には興味がないような振りをして他の話題に変えようとした。本当は話したくてしょうがない友里にとってこれは耐えられなかった。
 「ごめん。話す~。」
 ニヤリと笑いながらもえはこう言った。
 「で、どんな人なの?」
 「繊細な感じの人。それで私の考えている事がなんでもわかる人かな。」
 その瞳は輝いていた。
< 206 / 272 >

この作品をシェア

pagetop