あなたに恋してる

彼女は気づかない


金曜にコンフォルトに行けば必ずカウンターの奥のいつもの定位置で飲んでいる女。

前園 美雨

彼女の右隣りは俺の定位置だ。
左隣りは、悠がいれば悠が座るが普段は美雨の鞄置き場になっている。

初めて彼女に会ったのもここだった。
偶然の幼なじみとの再会に美雨は喜び、悠にべったりだった。

俺の存在にも気づかない…

こんな女、始めてだ。

自慢じゃないが、女に見向きもされたことなんてない。
たいていの女は、すり寄ってくる。

それがうっとしいから無口で酒を飲んでいるんだが、美雨は違った。

大也の妹だとわかった時に納得する。
大也といい悠といい、美雨の周りにはいい男しかいないから…俺になびかない。

綺麗な顔で悠に微笑む笑顔。

その笑顔を俺にも向けてほしい…
初めて女にそんなことを思った俺は、美雨に魅かれていた。

彼女の中に印象強く残りたくて、悩んでいる美雨に初対面のくせに冷たい言葉で説教をする。

「なりたい訳じゃないだと…真剣にその歯科衛生士になりたくて勉強してる奴に失礼だ。そんな気持ちならとっとと辞めてしまえ」

「なんなの…あなたに関係ないじゃない。あなたに言われる筋合いはないわよ」
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