悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
ドレッシングルームから出て来た彼女は

、目の前に俺が立っていることに驚き、

顔色を変えた。


やはり…彼女に間違いないのかもと腕を

掴み、誰にも邪魔されない立ち入り禁止

のドアを開けた。


彼女が逃げないように閉じ込め追い詰め

る。


鼻先きが触れる距離で彼女を見つめ、手

の感触を頼りに耳殻を掴み、耳朶まで撫

でると、あの日の感覚が蘇ってくる。


やはり…彼女で間違いないと確信し、肌

に触りたくて指先でうなじを撫でた。


忘れられない肌の滑らかさ。


ゆっくりと反応を確かめるように動けば

あの日のように喉を仰け反らせる。


艶ぽい瞳に引き込まれ見つめあいくちづ

けしようと屈もうとすると…彼女はいた

たまれなかったのか話しかけたきた。


『……私に、何のご用でしょうか?』


『俺を忘れたのか?』


『……どなたかと間違えておられません

か?』


俺を本当に覚えていないのか⁈


それとも誰がわかっているくせにとぼけ

るのか⁈


『間違いか⁈…どうかは確かめればわか

る』


苛立ちとともに顎を捉えると唇を塞ぎ、

あの日を思い出させるキスをする。


唇を啄み、下唇を甘噛みし、開いた隙間

に舌を差し込み貪めば、あの日と同じ反

応をする。


逃げようともがくが、次第に欲情が勝っ

たようで甘い吐息を漏らし、すがりつい

てきた。


身体に沸いた熱で、彼女をこのまま抱い

てしまう訳にはいかない。


シラを切る彼女にはお仕置きが必要だ。


『……すまなかった。勘違いだったよう

だ』


キスの余韻に浸っていたのか、俺の言葉

に表情が曇るも、すぐに何もなかったよ

うに笑みを浮かべた。


『……わかっていただけて良かったです

。ですが、こんな方法で確かめるのは、

誤解を生むのでやめられた方がいいと思

います』


彼女を少し懲らしめるつもりだったのに

、あの日も今した蕩けるキスもなかった

ことにするつもりなのだと彼女の言葉が

そう言っているように思えた。


せっかく出会えたのになかったことにな

んてできない。


君は俺のものだ。


逃げた彼女を捕まる。


そのためには、彼女を俺の側に置いて思

い知らせるしかないだろう。


俺は、ある計画を立て今、彼女の目の前

にやってきた。


会社を継ぐことを条件に彼女を俺の側に

置く。


親父は、彼女の意思を尊重するようにと

促すが聞く気はない。


俺の恋路を邪魔する奴は、例え親父でも

容赦はしない。
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