悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
胡桃…お前も俺と同様に感じた筈だ。


背後から彼女を抱きしめ囁いた。


「挨拶なんてどうでもいい…胡桃、君も

感じたはずだ…キスの続きをしよう」


エレベーターに乗り込み、2人きりの空

間。


「……逃がさない」


そのままエレベーターの壁に追いつめ、

うつむく彼女の顔を捉えた。


「……副社長」


「違うだろう…零って呼べよ」


「…れ、い」


頬を染め、愛らしい声で名前を呼ぶ。


自分で言わせたくせに、俺の名を呼ぶ彼

女の声に半身が反応してしまった。


「……俺を煽っているのか⁈」


まったく、10代のガキじゃあるまいし

そんなことで反応する自分の半身にチッ

と舌打ちする。


突然、胸を突き飛ばそうとするがひ弱な

彼女の力ではビクともしない。


「キス以上はしないと約束したわ。お願

い…気が済んだでしょう。私を帰して…

…」


半泣きの彼女…さっきまでの甘い雰囲気

はどこへいってしまった。俺は何を間違

えてしまったんだ。


彼女の頬を伝う涙を指で拭い、彼女が背

けないように両手で顔を挟んだ。


「……泣いても帰さない。逃がさないと

言ったはずだ……素直になれよ」


触れるだけのキス…彼女の頑な心が開い

た。


「1度でいいの…零、私を抱いて…」


1度なんて言わず、俺から離れなくなる

まで何度でも抱いてやるよ。


「…………(今日)は逃げるなよ」


彼女はあの日を忘れたいのだろうか?


あんなに情熱的に愛しあったというのに

…自分を偽り俺を覚えていない素振りを

みせる。


どうしてだ⁇


こんなにほしいと思う女は【胡桃】君だ

けだ。


君がなぜ俺を拒むのかわからないが、も

う、あの日のように逃がしはしない。


身体だけでも繋ぎとめれるなら、俺はお

前を何度だって誘惑するさ。


どんな手を使っても君を離しはしない。


彼女をホテルの1室に連れ込み、あの日

と同じように順を追って君を抱く。


まだ、鮮明に浮かぶあの日を……


君は思い出してくれるかい⁈


あの日、一目惚れした君が見ず知らずの

俺に身体を預け、俺の腕の中で何度も可

愛く鳴いていた。


朝、目覚めたら君がいなかった時の喪失

感。


あの日以来、君以外の女なんて抱く気に

もなれなかった。


だから早く、俺の元に堕ちてこい。


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