悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
突然、仕事を振られ慌ててメモを取った

。まさか、電話番以外の仕事を依頼され

るとは思いもしなかった。


「はい」


「では、お願いします」


表情一つ変えずに出て行く峯岸の背後で

、仕事をくれた彼に胡桃が感謝を込めて

お辞儀しているとは峯岸も思わずにいた




ただ、副社長に頼まれただけ……


自分がした方が、効率がいい。


峯岸にとって彼女は、副社長の獲物でし

かないのだ。


2人きりの密室を作っているのは、その

ためだと言うことを彼女は気づいてはい

ない。


早く、ハンターに追い詰められ副社長室

という檻に彼女が捕らわれてくれれば、

面倒なお守りを彼女に押しつけられる。


そう願うだけだった。


先ほどの2人の様子から、獲物は追い詰

められているように見えた。


思わずクスッと笑みがこぼれ、辺りを見

回し誰も見ていない事を確認すると、ま

た、無表情の鉄仮面に戻り来た道を歩い

た。


そんなことを思われているとはつゆ知ら

ず、胡桃は急ぎ顧客リスト作るためパソ

コンを開いた。


10時のお茶出しと、電話の取次等に時

間を取られなんとか、12時前に顧客リ

ストをまとめあげることができた。


トントンとノックをし副社長室のドアを

開ける。


「失礼します」


顔を上げた表情は、朝のまま疲れた表情

をしていた。


「昨年度の顧客リストまとめました」


「あぁ、ありがとう」


なぜ顧客リストを今更まとめる必要があ

ったのだろうかと疑問を持ちながらも机

の上の隅に邪魔にならないように置いた




「…胡桃、おいで…」


彼の声に誘われるまま、革張りのゆった

りとした椅子に座る彼の手引きによって

膝の上を跨ぎ向かい合わせになった。


「…ふ、ふくしゃちょう」


「零だろう…」


「れ い」


「キスしてほしいな⁈」


甘ったるい雰囲気をかもし出し、私の頭

を撫でる表情は疲れているにも関わらず

艶ぽい顔をしている。


そんな顔されたら断れない。


彼の肩に手を置き唇をそっと重ねた。


すぐに離れるはずだったのに、濃密にな

っていくキス。


逃げる唇を離さないと追いかけて何度も

唇を塞いでくる。


副社長室で、こんな体勢でキスをしてい

るところを誰かに見られたら言い訳なん

か出来ないのに、そんなことになっても

お構いなしなのか一向にやめてはくれな

い。



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