悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
冷たく切り捨てる言葉に、グサッと胸に

杭が刺さったように突き刺さる。


「言われなくてもそうするつもりです」


「あなた、勘違いする前に気づいてよか

ったわね。彼は、私と結婚するしかない

のよ。そうなったらあなた彼に捨てられ

てたわ。だって、彼は本気で女を好きに

ならないんだから…」


悲し気に最後は呟いている彼女。


そんなこと言われなくてもわかってる。


どんな濃密なキスをしたって…


情熱的に身体を重ねても……


触れる優しいキスをしても……


甘く見つめられても……


彼は、愛を囁いてくれなかったもの。


いつかは、彼に捨てられる。


彼を好きだと気づいた時、心のどこかで

そう思う自分がいた。


だから、捨てられる前に私から離れるの


あなたは、愛されなくても力で彼を手に

入れたいのよね。


愛してもいない女でも、目の前から突然

いなくなったら記憶に残るでしょう。


だから、私は、彼の記憶に残る方を選ぶ

わ。


「これで、失礼します」


彼女のことだから、零に言うわよね。


明日、零に報告するしかないわ。


嘘がばれて零はどうするのかしら⁈


大和建設からの圧力に屈するのかしら⁈


私は、用済み…よね。


明日、出社して退職届けを置いて辞めて

しまおう。


社会人として、いけない事だとわかって

るけど、峯岸さんがいるし私がいなくて

も彼は困らない。


実家で着てきた振袖を着たまま、母に帰

ることをメールして自分のアパートに帰

った。


******************


翌朝、副社長室で零と峯岸さんに報告


「副社長、申し訳ございません。昨日、

お見合いをしているところを大和建設の

お嬢様に見られてしまいまして、ごまか

す事が出来ませんでした」


深々と頭を下げ、零の言葉を待った。


「……………お見合いで…会ったのか?

どうしてなんだ」


いつもの俺様な声色でなく、気弱な男の

ように呟いている。


そんなに、ばれた事がショックなの。


会社の為に結婚願望のないあなたが、政

略結婚をしないといけないから落ち込ん

でいるのね。


私のせいでごめんなさい。


「どうしてなんだ⁈」

返事をしない私に苛立ち、零が声を荒げ

た。


「ごめんなさい。彼といるところを見ら

れて言い訳できなかったの」
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