嗤わない月の下で
父さんの声だ。

涙があふれる。

「父さん、僕だよ」

「どちら様で?」

「弘だよ」

「弘・・・!」

受話器の先で驚いているのが判る。

「よくかけてくれた」

すこし涙ぐんだ声だった。

「うん、長い間電話しないでゴメンよ」

「いや、いいんだ、元気か?」

「ああ、元気だよ」

「今度飲みに行こう、お前の姿が見たい」

「うん、行こう」

そこで、かちゃりと受話器を閉じた。

少し、拍子抜けした後、父親との思いでが頭の中によみがえってくる。

そして、佐藤さんの胸に抱きつき、泣きじゃくった。
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