Love nest~盲愛~
昼食を食べ終えて、書庫で過ごす贅沢な時間。
窓辺のソファーに腰を下ろし、彼にメールを入れてみる。
『お仕事、お疲れ様です。何時頃の帰宅予定でしょうか?』
味気ない文章。
色気もなにもない。
けれど、彼との間にそれ以外の言葉が見つからなかった。
送信したものの、返信が中々来ない。
ちゃんと送られているのか、心配になる。
もしかしたら、会議中かもしれないし、商談中かもしれない。
学生ではないんだから、直ぐに返信出来ないことの方が多いに決まっている。
久しぶりに童話でも読もうかと、普段は触れない棚から可愛い絵の本を数冊手に取る。
その昔、何度も読み返した好きな絵本だ。
『がちょう番の少女』
グリム童話の一編で、王女が遠い国にお嫁に行くことになり、侍女と人話が出来る馬を与えられ嫁ぎに行く途中で、侍女が王女になりすまし、花嫁として迎えられてしまう話だ。
最終的にはハッピーエンドになるのだが、毎回最後まで気を揉みながら王女に感情移入してハラハラドキドキしたのを覚えている。
確か、この王女の銅像がドイツに実在していると、初恋相手のみさきお兄ちゃんが教えてくれたっけ。
懐かしむようにその絵本を読み始めた。
当時7歳くらいだった私には、結構な文字数の本だった記憶がある。
だから、いつも会う度にせがんで読んで貰っていた。
その懐かしさも相まって、胸の奥が温かくなるのを感じた。
最後のシーンに差し掛かり、ページを捲った、その時。
本の隙間からはらりと何かが床に落ちた。
「………えっ」