Love nest~盲愛~
「白川、エアコンを止めろ」
「はい」
彼は運転手の男性に冷房を切るように指示をした。
そして、自分が着ているジャケットを脱ぎ、それを私の身体にそっと掛けた。
高慢で常軌を逸した人かと思っていたのに、何これ?
子ども扱いしたかと思えば、今はレディとして扱われている。
彼の真意が分らない。
私の肌が粟立ったせいか、それを気に留めてしてくれたって事?
私は一体どうしたらいいの?
こんな風に優しくされても、現実が私を打ちのめす。
お金で買われた人形の女に過ぎない。
大金と引き換えに、私はこの人のモノになる。
何とも言えない状況の中、私は………ただじっと息を殺していた。
車体の揺れが静かに治まり、車は停車した。
すぐさま運転手の白川さんが後部座席のドアを開ける。
すると、私の身体を支えるように彼の手が添えられ、甘いバリトンボイスが降り注ぐ。
「降りるぞ」
「っ……はい」
蒼白いルームライトに照らされた彼の顏は、悪魔の微笑とも思えるほどに妖しく、そして、美しかった。
私達を乗せていた車は、アメリカ西海岸を思わせるヴォーリズ建築の豪邸のエントランス前に。
サファード(正面外観)は、ルージュカラーの屋根とベージュホワイトを基調としたスパニッシュ住宅。
シンメトリーの造りで中央に存在感のあるエントランスがあり、私はそこへ降り立った。