Love nest~盲愛~


「お帰りなさいませ、若」

「お帰りなさいませ、坊ちゃま」


黒いスーツを纏う年配の女性が優しく微笑み。

その隣で同じく黒いスーツを纏う中年の男性が綺麗に腰を折る。


そして、すぐさま運転手の白川さんから私のボストンバックを受取り、エントランスの中へと歩き出した。

すると、スッと私の腰に彼の手が回り、リードされるように歩かされる。


足を踏み入れる事さえ躊躇うような煌びやかな大理石の床の上を。


“若”と“坊ちゃま”と呼ばれる彼。

本当に一体、何者?


息を呑むほどの豪邸に住んでいて、ざっと見回しただけでも使用人の数が半端ない。

キャバクラの経営って、そんなに儲かるの?

あこぎな商売なのかしら……?


エントランスから抜けた先は、映画で観るような緩やかなカーブを描く階段。

手すりの細工でさえ目を見張るものがあるのに、その踏み段のステップ部分は金の縁取りが施された大理石。

カツカツコツコツと、足音が楽器になったみたいに綺麗に反響している。



すれ違う使用人らしき人々が会釈する中。

私は視線だけを泳がせて邸宅内を隈なくチェック。


あちこちに緑や花が飾られ、絵画や美術品も存在感を成す。

どこに視線を向けても、お伽の国のような感覚に陥ってしまう。



ここは、…………日本よね?



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