Love nest~盲愛~


大変、数時間経ってしまったようだわ。


溜息まじりに上体を起こすと、肩先から何かが床に落ちた。

無意識にそこへ視線を向ければ、そこにはダークグレーのジャケットが。


「えっ?」


何故、これがここに?

ざわつく胸に手を当てながらベッドから下りて、ジャケットを手にする。

高級な生地の質感と、微かに香る煙草の匂い。

間違いない、これはあの人の物だわ。


でも、………何故?

いつここへ来たのかしら?

私がぐっすり寝入っていて、気付かなかったという事よね?

もしかして、火傷の具合を心配して……?


心地良い陽ざしを浴びながらベッドの上に横になっていたから、掛布団を掛ける事も出来なかったという訳ね。

だから、自分が着ていたジャケットを私に……。



指の手当てといい、ジャケットといい、彼は本当に優しい人なのかもしれない。

………私が知らないだけで。



私はジャケットを手にして、書斎へと向かった。

けれど、書斎に彼の姿は無かった。


慌てて1階へ下り、今井さんを見つけ、彼の居所を尋ねると。


「坊ちゃまなら、1時間ほど前に会社へ行かれましたが」

「………そうですか」

「何か、ご用がお有りですか?」

「えっと、………いえ」


事情を今井さんに説明した所で、直接彼に御礼を言わなければ、何の意味もない。

私は言葉に詰まり、視線を泳がせると。



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