Love nest~盲愛~


「宮本様、えりなちゃんが暫く席を外しますが、私1人ではお嫌ですか?」

「フッ、何を言ってるんだ、あかりは。私はお前に逢いに来ているのだよ?」

「ウフフフッ、嬉しいですわ。………では、えりなちゃん。宮本様にご挨拶を」

「へ?…………あっ、はいっ!」


あかりさんが宮本様から退席の了承を得て下さった。

あかりさんの瞳を見た瞬間、私は初めて認識した。


――――『どんな事があっても、お客様をお待たせしてはいけないわ』


あかりさんから教えて頂いた接客の心得だ。


私はあかりさんにアイコンタクトを取り、腰を上げソファからフロアへ移動し、来た時と同じように腰を低くして……。


「宮本様、誠に申し訳ありません。暫しの間、失礼致します」

「ん、愉しんでおいで。私にはあかりがいるから、気にしなくていいからね」

「有難うございます。では、失礼致します」


丁寧にお辞儀をして、その場を後にした。



宮本様のテーブルを離れた私は松川さんの後を追い、フロアの最奥へと歩み進めた。


そこはVIPルームと呼ばれる上客専用の個室。

しかも、2つあるVIPルームのうち、グレードの高い部屋の前で足を止めた松川さん。

そして、ゆっくりと深呼吸してから振り返った。


「えりなちゃん」

「……はい」

「くれぐれも、粗相の無いように………いいね?」

「…………はい」


怖気づいてしまうほど、松川さんの声に迫力がある。

思わず生唾を飲み込んで気合いを入れ直した。


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