Love nest~盲愛~


松川さんでさえ緊張するような方が、初めて指名して下さったお客様だなんて……。

顔も名前も売れてない私が指名を受けたという事は、宮本様の卓にいた姿が目に留まり、場内指名を受けたという事になる……よね?


松川さんに倣うように深呼吸し、素早く前髪を整えて松川さんに合図を送ると。

彼は丁寧にドアをノックし、そして静かに開けた。


「失礼致します。お連れ致しました」


室内の煌びやかなシャンデリアが視界いっぱいに広がり、一瞬頭が真っ白になってしまった。

けれど、視界の中にダークグレーのスーツを身に纏った男性が腕組みをして、こちらに鋭い視線を向けている。

私は意を決して彼の目の前まで歩み寄り、静かに腰を落として柔らかい笑みを浮かべながら丁寧にお辞儀をした。


「こんばんは、初めまして……えりなと申します。ご指名頂き有難うございます」


緊張しながらゆっくりと顔を持ち上げると、尚も鋭い視線を向けている。

もしかして、待ちくたびれて気分を害されたかしら?


ソファに深く腰掛け、背凭れに体を預けるように長い脚を優雅に組んでいる彼が、私の初めてのお客様。

ヘルプは所詮ヘルプ。

自分のお客では無い。

そうあかりさんから教わった。


背筋が凍りつくほど緊張感に心拍数が一気に上昇する中、


「……お隣に座らせて頂いても宜しいでしょうか?」


パニクる脳内で導き出した答えは、あかりさんから教わった接客手順。

ド素人の私が出来る事なんてたかが知れてる。

臨機応変だなんて、所詮無理な話だ。


必死に営業スマイルを顔に貼り付けると、


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