Love nest~盲愛~
「右側に座れ」
「ッ?!……はい、では、失礼致します」
アッシュブラックの髪はナチュラルな動きにアレンジされ、少し短めな髪がデキる男を醸し出している。
男性には贅沢過ぎる長い睫毛を纏う目元、スッと伸びた鼻梁、形の良い唇。
そして、甘く痺れるようなバリトンボイス。
ソファに腰を下ろしているから全体像は把握出来ないが、長身であるのは間違いない。
肩幅も結構あり、きっちり結ばれたネクタイの結び目の少し上には、存在感をなす喉仏。
どのパーツを取っても完璧で、うっとり見惚れてしまうほど大人の色気を纏う人。
芸能人? それとも、モデル??
「あの、お飲物は如何致しましょうか?」
意を決して声を掛けたのにもかかわらず、尚も鋭い視線を向けて来る。
腕組み姿勢もそのままで、ピクリとも動かない。
もしかしなくても、相当ご立腹なのかしら?
こういう場合の対処法だなんて、あかりさんから教わってない!
私はどうしたらいいの?
次第に潤み始める目元。
貼り付けた似非スマイルが崩れ始めると、コンコンとドアがノックされた音がした。
その音のもとへ視線を向けると、私をここへ誘導した松川さんがワゴンを押して入って来た。
オーダーを伺うまでもない。
既にオーダーされていたようだ。
松川さんはお客様にワインボトルのラベルを見えるように手にしてから、丁寧に栓を開ける。
そこには………『D.R.C. ロマネコンティ』と記されていた。