上司に秘密を握られちゃいました。

憧れのシチュエーション。
好きな男の人に呼び捨てで呼ばれるのが、夢だった。


「藍華」


彼は優しい音色で私を呼ぶ。


「大切に、する」

「……はい」


目頭が熱い。
恋って、こんなに素敵なものなんだ。


ふたり並んで後片付けをすると、なんだか同棲しているみたいで、無駄に胸が高鳴る。

私が皿を洗い、拭いてくれる彼に渡すと、時々触れる肘に、意識が集中してしまう。


「今度の休み、どこか行こうか」

「はい!」


年末年始は、まさに馬車馬のように働いた。
彼と一緒にのんびりしたい。


彼はしばらくして帰って行った。
帰り際に私を抱き寄せ、額にキスをして。

恋愛初心者だと伝えなかったけれど、もしかしたら伝わっているのかもしれない。
きっと、ぎこちないから。

彼と一緒にいられたのは、ほんの二時間ほどのことだった。

それでも、すごく幸せだった。
こんな日が続くといいな。
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