上司に秘密を握られちゃいました。
「帰らないで、ほしい」
「えっ?」
背中越しに彼の低い声がして、心臓が跳ねる。
「藍華……」
溜息交じりの彼の声が耳にかかったかと思うと、後ろから強く抱き寄せられた。
早乙女様の言っていた『ア、ゲ、ル』の言葉が頭をよぎる。
私だって帰りたくない。
でも……恋愛初心者の私は、どうしていいのかすらわからない。
ドキドキしながら彼の腕に触れる。
やはり筋肉質で固い彼の腕は、緩むことがない。
「私……」
この先に進むのが怖い。
だけど、こうして抱き寄せられると、幸せでたまらない。
「藍華、怖い?」
彼の質問にビクッと震える。
常に私の気持ちを考えてくれる彼なら、不安な気持ちですら全部受けとめてくれるだろう。
彼の腕の中で、クルッと振り返り、彼に抱きついた。
「怖いです。でも……私も真山さんと一緒にいたい」
彼の手に一層力がこもり、バッグが床に転がった。