上司に秘密を握られちゃいました。

「帰らないで、ほしい」

「えっ?」


背中越しに彼の低い声がして、心臓が跳ねる。


「藍華……」


溜息交じりの彼の声が耳にかかったかと思うと、後ろから強く抱き寄せられた。


早乙女様の言っていた『ア、ゲ、ル』の言葉が頭をよぎる。

私だって帰りたくない。
でも……恋愛初心者の私は、どうしていいのかすらわからない。

ドキドキしながら彼の腕に触れる。
やはり筋肉質で固い彼の腕は、緩むことがない。


「私……」


この先に進むのが怖い。
だけど、こうして抱き寄せられると、幸せでたまらない。


「藍華、怖い?」


彼の質問にビクッと震える。
常に私の気持ちを考えてくれる彼なら、不安な気持ちですら全部受けとめてくれるだろう。

彼の腕の中で、クルッと振り返り、彼に抱きついた。


「怖いです。でも……私も真山さんと一緒にいたい」


彼の手に一層力がこもり、バッグが床に転がった。

< 273 / 439 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop