ホルガリズム
わずかに躊躇はしたけれど、結局僕は子どもひとり分ほどのスペースをあけて彼女の隣に腰をおろす事にした。1日の仕事を終えた太陽が、ビルの隙間へと身を隠していく。


「もしかして君、しっぽ撮ってたの?」


「え?」


不意をつかれ反射的に彼女の方へ目を向けると、彼女は僕のカメラと足元の黒猫を交互に見ていた。そこでようやく質問の意味が分かった。どうやらこの黒猫が“しっぽ”らしい。


「そうだよ。ちゃんと撮れてればの話だけど。」


「ん…?どういう事?」


今度は彼女の方が、わけが分からないという顔をした。


しっぽの、遠慮がちについている明らかに短い尻尾を見ながら、僕はこのカメラ――ホルガについて答えた。


< 8 / 24 >

この作品をシェア

pagetop