夏服を収める頃には
亜子は教科書に目を通している
健の首筋に軽く左の小指をなぞって、
何事もなかったかのように再び前の
方へ歩いたのだ。

目撃してしまった淳は急いで手鏡を
しまうと顔を伏せた。

(なんだ?あの女は!

ここをどこだと思ってるんだ。

許せない。

絶対に私は許すことは出来ない。

私こそが広瀬君に相応しいのだ。

あんなエイチ女なんかに
負けない!)

淳は悔しさで目が潤んできた。

健は亜子と一切目を合わさないで
いたが、突然首筋を触れられた瞬間
は声が出そうになった。

昨日の亜子の私服姿が蘇ってきて
額が汗ばんできた。
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