あやしやあんどん
 店内には静かな時間が流れる。サトリは目を閉じ、心地よい時間を過ごす。
 しばらくして、鮫島が戻ってくる前に店の扉が開いた。カランカランとベルの音がしてサトリは目を開く。


「あ!」


 来店した客は声を上げた。
 サトリはその客を見て驚く。
 ベルの音に気づいた鮫島が戻ってくる。


「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」

「はい」


 その客は鮫島に案内されてサトリの向かい席に座らされる。
 サトリは思わず鮫島に問う。


「どうしていっぱい席が空いているのに、ここなんですか?」


 その問に鮫島は首を傾げた。


「どうして?だって貴女にとってこの方は大事な人でしょう?」

「何を言ってるの?」

「さぁ、座ってください。今、お持ちしますから」


 鮫島が再び奥へと消える。
 サトリには理解できなかった。鮫島が言っている言葉も、この正面に座っている客のことも。


「学校では変なこと聞いてごめんな」

「・・・・・・」


 サトリの前に座っているのは、自分の死を知りたいと言った裕太だった。
 サトリは口を閉ざしてし、ここから逃げたい衝動駆られていた。


「香苗のこと、気にすんなよ。あいつ、シロと仲よかったし、さ」


 黙り続けるサトリに裕太は話続ける。
 必死だった。
 沈黙でいることが彼には耐えられないようにも見えた。


「俺も、シロのこと好きだったし・・昔からずっと一緒だったから」

「やめてよ」


 サトリがやっとの思いで口を開く。シロと言う一人の人間の話が出てくるたけで、サトリの心は酷く傷つく。


「もう、やめてよ」
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