あやしやあんどん
 サトリの目から涙が零れた。ガタガタと震える口で何度も裕太に頼み込む。
 やめてほしいと、何度も。


「ご、ごめん」


 サトリの涙を見て、裕太は謝る。裕太はただ、気まずさを紛らわすつもりだった。シロのことを触れてしまったのは間違いだったと後になって裕太は気づいた。

 二人が黙りこむと、そのタイミングを見計らったように鮫島が料理を二人分運んできた。


「お待たせしました」


 二人の前に置いた小さなお皿には、数粒の金平糖が乗っていた。それに合うように置かれた緑茶。


「今日は店主がお二人のために用意した特別なものです。どうぞ、ごゆっくり」


 鮫島はそれだけ言うとすぐに離れて行った。二人は暫く黙ったままだった。
 沈黙に耐えきれなくなった裕太が金平糖を一粒口の中へと放り込む。


「お、うまい!なんか不思議な味だな」


 裕太がまた一粒、金平糖を食べる。
 サトリは、それを見つめる。そして、自分の前に置かれた金平糖に手を伸ばす。手に取った金平糖を口へと運ぶ。


「本当、美味しい」


 口にいっぱいに広がる甘い味。サトリはその味をゆっくりと味わう。また懐かしい味がサトリを和ませる。


「懐かしいな」


 サトリの呟いた言葉に裕太は頷く。


「俺も、なんだか懐かしいよ」

「そう」


 金平糖を最後の一粒まで食べきった裕太はサトリに尋ねた。


「もう一度聞く。俺はいつ死ぬのかな?」


 再び問われたサトリは、真剣に問う裕太の表情を真正面から見た。


あの時も、こんな表情をしていたのだろうか。


 サトリは、最初に問われたときのことを思い出す。何も見ようとしていなかったあの時、もし彼が今と同じように真剣に聞いてきたら、サトリはどう答えを返しただろうか。
 サトリは、いつもは重く閉じている口を簡単に開いた。
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