君をひたすら傷つけて
「まりえのマンションに帰ってくる。でも、きちんと高取さんと話をしたいから、遅くなるかもしれないわ。だから、まりえにはきちんと『遅くなるかもしれない』とメールしておく。リズはこの後はどうするの?」

 スケジュールではこの後、リズは何もないはずだった

「もちろんマンションに帰るわ。その前に事務所に寄って、エマに報告はしておかないといけないわ。雅は明日はオフでしょ。今日は久しぶりの現場で疲れていると思うからゆっくりしてね。それにしても、やっと、高取さんと向き合うことにしたのね。帰ってくるけど遅くなるってことは会ってくるってことでしょ」

 リズには何もかもお見通しだった。私がお兄ちゃんにきちんと向き合うことを良かったと思っているのだろう。リズはいつも通りにニッコリと笑った。

「会って、自分の気持ちを確かめてくる」

「そうね。それがいいとは思うけど、結論を急ぐ必要はないわよ。
 まりえのマンションにギリギリまで居て、その後は、東京で働いてもいいし、フランスでもイタリアでもどこでもいいから。子どもを産むまでは事務所の近くにマンションを借りましょ。狭い部屋には飽きたから、少し広めの部屋がいいわ。パリの時みたいに一緒に住みましょ」

 リズの拠点はイタリアだから、日本での住まいは狭いと言ってもそれなりの広さだったし、狭いという雰囲気はない。それでも、ニューヨークやパリで生活していたリズにとっては狭く感じるのかもしれない。

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