君をひたすら傷つけて
 エマの戯言だと思っていたけど、リズはリズなりに本気で私と家族になるつもりだったようだ。でも、性別のみとはいえ、リズは男性。その、男性であるリズの美しさを目の前にすると、残念ながら女性の私の方が霞むというのは残念過ぎる。美に対する気合が足りないというのは分かっている。横目で見ながら綺麗だなって本当に思う。

 そんなことを考える余裕がある自分に気付いた。お兄ちゃんに会ったら、どうしようもない状況になるかもしれないと思っていたけど、離れた時間の分だけ私は冷静になれている。あのイタリアから帰ってからの自分とは違う気がした。今日はいい機会かもしれない。

 きちんとお兄ちゃんと向き合って話をしようとは思った。そして、イタリアでのことは忘れて貰いたいということを逃げずに伝えたいと思う。篠崎さんの仕事が忙しい時期と重なったから、お兄ちゃんも大変だったと思う。そんな時期に私のことで迷惑を掛けてしまった。

 リズのところに通うなんて、本当に大変だったろう。せめて、マンションを出た後にまりえのマンションにいることを伝えるべきだった。

「今日はどうするの?まりえのマンションに帰ってくるの?」

「どういう意味?」

「言葉のとおりよ。高取さんと会うのよね。それなら、向こうのマンションに泊まってくるかなって思っただけ」

 お兄ちゃんからは自分のマンションに連れていくとは言われているけど、それは話をするためであって、泊まるつもりではなかった。
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