君をひたすら傷つけて
 私はまず自分勝手なことをして、心配をかけてしまったことを謝ろうと思った。色々なことがあったとはいえ、長い間、一緒に住んできて、自分の中での気持ちが揺れるからといって、ここを出たのはどうしようもなかったからとはいえ、大人のすることではなかった。でも、謝る前にお兄ちゃんに遮られた。

「わかった」

「何から話したらいいのか分からないけど、雅がこの部屋を出ていって、前の状況に戻っただけなのに、部屋が広く感じたよ。雅が出ていって、雅の意思を尊重しようと思ったけど、どうしても無理だった。前に話したと思うけど、雅のことは妹のようだとずっと思っていた。でも、少しずつ自分の中で一人の女性としての雅の存在が大きくなってきて、雅とアルベール・シュヴァリエとのことを芸能関係の記者から聞かされた時は一緒にいることが出来るアルベール・シュヴァリエを妬んだ。だから、パリに行った」

「アルベールは大事な友だちだったし、お兄ちゃんがパリに来た時はまだ付き合ってなかったわ」

「それでも、同じような業界にいるからか、話は入ってくる。ただ、大きな圧力で表面上は消されていたけどな。雅とパリで一緒に過ごして、可愛いと思ったし、この時間がもっと長く続けばいいと思った。そして、運命の悪戯なのか、雅は日本に帰ってきて、しばらくして一緒に住むようになって、自分の気持ちが溢れそうで怖くなっていた。雅の前では『完璧な兄』で居たいと思っていた。でも、それも限界が来ていた」
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