君をひたすら傷つけて
「いや。結構な変化だよ。毎日、仕事は完璧にしながらも、不意に男の俺でもドキッとするような顔をする。元々、切れ長で格好いいとは思っていたけど、その鋭さが和らいで、いい表情を浮かべる。高取には今までずっと世話になってばかりで、何も返せてないんだ。だから、高取が幸せになってくれるといいって思うくらいしか出来なくて」

 そんなことを篠崎さんは言うけど、篠崎さんの存在がどれだけ義哉を失った慎哉さんの心を癒したかと思う。篠崎さんを一人前の俳優になれるように心を尽くしたのはその思いからだと思う。そのことを篠崎さんも分かっている。

「そんなことないと思いますけど」

「本当にして貰うばかりで何も出来てない。俺に出来ることは、いい俳優になるのが、一番の親孝行じゃなくて、高取孝行だと思うけどどう思う?」

「篠崎さんが映画祭で審査員特別賞を受賞された時、高取さんはとっても嬉しそうでした。篠崎さんが頑張っているのが分かるからそれでいいと思いますよ」

「高取と似たようなことを言うね」

「そうですか。そんなことないと思いますけど」

「そういうところが似てる。謙遜するところとか、相手のことを大事に思う気持ちとか。さ、そろそろ、撮影が始まるな。早くマンションに帰って里桜の作ったご飯が食べたいよ。一発で決めてきたいな」

 元々、里桜ちゃんへの思いを素直に口にする人だったけど、結婚式が終わってから、今まで以上に甘さを増した気がする。そんな篠崎さんを見ながら微笑ましく思うのは私だけではないだろう。話し合いをしながら、スタジオの篠崎さんに視線を囚われる慎哉さんも私と同じことを思っているかもしれない。
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