君をひたすら傷つけて
『今からスタジオを出ます。遅れてごめん』

『急がないでいいから、気を付けておいで』

 スタジオを出てすぐにメールを打つと、すぐに返信が帰ってきた。急がないでいいと言われても待たせるのは気になる。私はスタジオの前からタクシーに乗ると、そのまま義哉のお墓に向かった。

 季節は三月。

 まだ肌寒い日が続くものの、次第に春めいてくる街並みを見ながら、私は義哉のお墓に向かう。静かに移り行く景色を見ながら、私は自分のお腹に手を当ててみた。まだ、外観からは分からないけど、手を添えると少しだけ膨らみを感じる。まだ動きもしないし、身体に大きな変化もない。数か月もすれば、私は慎哉さんの子どもを出産するだろう。

 結婚しようと言われ、私もそれに頷いた日から、いつかは義哉に報告に行きたいと思っていた。でも、寒さが厳しく、少し寒さが緩んでからにしようと思っていたのを、慎哉さんは知っていて、こうやって寒さが緩んできたから誘ってくれたのだと思う。

 両家の挨拶も終わらせ、籍を近々入れることも決まっている。久しぶりに会った慎哉さんのお母さんは私が慎哉さんと結婚することを涙を流して喜んでくれた。私が結婚することを喜び、お腹の中にいる子どものことも喜んでくれた。

 反対されないだけよかったと思う。

 スタジオから義哉の眠るお墓まで三十分くらいは走っただろうか。タクシーが止まって、降りると、そこには慎哉さんの車が駐車してあり、その中に慎哉さんの姿はなかった。
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