君をひたすら傷つけて
 私は義哉のお墓の方に向かって歩いていくと、視線の先にお墓の前に座って真剣な表情をしている慎哉さんの姿があった。何も言わず、ただ、お墓を見つめている。そして、ゆっくりと手を伸ばし、愛おしむように墓石を撫でた。

 私と義哉に思い出があるように、慎哉さんも義哉との思い出がある。ずっと守ってきた弟を失った痛みは私の比ではないだろう。でも、あの時の私は自分の事ばかりで慎哉さんの気持ちまで思いやれてなかった。

「遅くなってごめんなさい。もう掃除も終わったの?」

 私がそういうと、慎哉さんはスッと立ち上がると私の方にゆっくりと歩いてきた。そして、手を取ると、義哉の前に連れて行ってくれる。

「そんなに汚れてなかったから」

 私は何度となく通った義哉のお墓に手を合わせると、慎哉さんもその横で手を合わせた。そして、しばらくお参りをしていると、慎哉さんが少し悲し気な表情を見せた。あまり自分の表情を零さない慎哉さんにしては珍しい。

「こうやってここに来ると、義哉のことを思いだす。そして、今日は雅と一緒に来て、義哉に報告をしたかった。雅を一生大事にすると。天国のお前が心配しないでいいように大事にする。幸せにするから」

 慎哉さんにとって私は弟の初恋の相手。ずっと妹のように思いながら生きてきたから、心のどこかで義哉に対しての負い目があったのかもしれない。だから、大事にすると幸せにすると誓いたかったのだろう。

 私はそんな慎哉さんが好きになったのかもしれない。
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