君をひたすら傷つけて
 受付で名前を言うと、連絡が行っていたので、すぐに今日、篠崎さんが使っている楽屋を案内された。撮影を行っているスタジオから少し離れてはいるけど、広めの楽屋だった。ドアをノックして入ると、篠崎さんは一人で小上がりの畳の上に座り、長い足を投げ出し、台本を片手に眉根を寄せていた。こんな表情の篠崎さんは珍しく、私は、本当に撮影が上手く行ってないのを感じた。

 そんな中、私事で篠崎さんの時間を使っていいのだろうかと思った。

「お疲れ様です。今日は無理を言ってすみません」

「あ、雅さん。お疲れ様。こっちこそ、時間に遅れてごめんね。今、高取は急な打ち合わせに呼ばれて行ってる」

 そういうと、篠崎さんは台本を伏せてから、畳から降りて、私の方に来ると、テーブルの椅子を引いてくれた。

「ここで少し待ってくれる?飲み物は……コーヒーはダメだよね。お茶か水しかないけど、どうする?緑茶や烏龍茶か、あ、麦茶もある。後は水のペットボトルの水か、オレンジジュースもあったはず」

 私を椅子に座らせると、自分は冷蔵庫の方に歩いて行きながら私に話しかけてきた。本当に忙しいだろうに、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

「すみません。すぐに帰りますので、お気持ちだけで」

「でも、お茶くらいいいでしょ」

「では麦茶をお願いします」

「はい」

 篠崎さんは冷蔵庫から、ペットボトルに入った麦茶と、近くの机の上にあるお菓子の入った籠を私の前に置いた。

「よかったらどうぞ」

「すみません」

「そんな恐縮しないでよ。高取から今日のことを聞いて本当に嬉しかったんだ。だから、喜んでサインさせて貰うよ」

「ありがとうございます」
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