君をひたすら傷つけて
「そんなこっちこそありがとうだよ。俺にとって大事な高取が幸せになろうとしているんだ。その証人に自分を選んでくれて本当に嬉しいよ。喜んでサインさせてもらう。でも、雅さんが高取と一緒になってくれて本当に嬉しいよ。だって、この頃の高取は本当に幸せそうだ。そんな高取の顔を見ているだけで、俺も幸せになる」

「高取さんは変わりました?」

「ああ。俺の結婚式の後、しばらくは凄く落ち込んでいて、ここしばらくは初めて会った時のようなロボットみたいな高取になっていて、ある意味怖かった。でも、雅さんが戻ってきて、俺のよく知っている温かい血の通った高取に戻った。いや、違った意味で知らない高取の一面を見た気がする。今は幸せが溢れるというか、零れるというか、もう……」

「そこまでにしましょうか。私をネタに遊ばないでください」

 ヒートアップする篠崎さんを窘めたのは慎哉さんだった。ドアがパッと開いたかと思うと入ってきた慎哉さんは困ったような顔はしているものの、怒っている様子はなかった。

「別に遊んでないよ。本当のことを雅さんに言っているだけ。高取は雅さんの前ではいつも通りを装っているけど、ラブが駄々洩れだよ。雅さんがマンションを出てからの高取の姿をビデオに撮っておけばよかったと思うくらいだよ。それを見たら、俺がラブ駄々洩れっていうのも納得するから」

「海……。その辺にしましょうか」

「わかった。この後、どうだって?」

「別の場面から撮るそうです。海の待ち時間は三十分というところでしょうか」

「わかった」

「婚姻届の証人欄をお願いしてもいいですか?」

「もちろん」
< 1,057 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop