君をひたすら傷つけて
 婚約者としての今の生活は前とは違っていて、慣れない部分もある。でも、それは私だけでなく慎哉さんもそうだろう。今まで妹のように接してきた私が、妻になるのだから……。たった一夜の恋で子どもを身籠り、私は結婚することになった。

 それまでの道のりが果てしなく長かったから、最後の恋の部分は急転直下の様相だった。でも、後悔はない。お腹に宿った命を大事にしたいし、撫でる度に愛しさが募ってくる。

 ミルクに少し砂糖をいれたものを飲みながら、ぼーっとしていると、しばらくして慎哉さんが起きてきて、ニッコリと笑う。完全にオフモードの慎哉さんは今までとは全く違う姿を見せるようになっていた。仕事の時に見せる鋭さもなければ、兄妹のように住んでいた時のような、全てを包みこむような過保護さもなく、ただ、ただ、自然にそこにいる。

 責任感が強い人だし、頭もいいから、冷静沈着な部分はある。真綿で包むような過保護さもなく、一緒に手を繋いで歩けるくらいのスピードで私を前に進ませる。それが心地よかった。

「雅。おはよう。起きるのが早いな」

「うん。なんか早く起きちゃった。緊張しているのかな??だから、少しでも気持ちを落ち着けたくてホットミルクを飲んでいたの。慎哉さんはコーヒーいる??」

「ああ。貰う。俺も少し緊張しているかもしれないな。妙に胸の奥が落ち着かない気がする。こういう時はいつもどおりが一番いいのは分かっているけど、中々、難しい。きっと、めちゃくちゃ緊張しているんだろうな」
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