君をひたすら傷つけて
「不安になったの。急に」

 そう、私は不安になっていた。結婚生活も育児も自分でいいのか?出来るのか?と思ってしまう。仕事を持っていて、スタイリストの仕事は深夜になることもある。そんな中で子育てとか出来るとは思えない。

「俺が思うに、雅はマリッジブルーとマタニティブルーが一緒に来ているのではないかと思う?すべてが急だったからな。でも、不安になるというのはいいことかもしれないぞ。それだけ今からのことを一生懸命考えてくれているということだろ。結婚生活も育児も雅一人に任せるつもりはないよ。ただ、出産だけは頑張って欲しい。雅が望むなら、立ち合い出産でも何でもするが、俺が代わりに産むことは出来ないから」

 慎哉さんの言葉は私の心の奥にある不安を全部取り除くことは出来ないけど、軽くなるのは感じた。

「ありがとう。慎哉さん」

「結婚したら、色々な問題も出て来る。でも、それを二人で話し合いながら、一つずつ解決して、ゆっくりと二人で一緒に生きていきたいと思う。急ぐことも焦ることもなく。ただ、二人の速度でいいだろ」

「うん」

「さ、そろそろ行こうか」

 差し出された手に自分の手を重ねるとゆっくりと引き上げられ、私の身体を抱き寄せた。

「そんなに心配しないでいいよ。俺がいるから」

「うん」

 私は慎哉さんに手を引かれてマンションを出た。急ぐことなく二人で歩いていくと少しずつさっきまでの妙な焦る気持ちが落ち着いてくる気がした。マンションの駐車場から慎哉さんの運転する車で区役所まで行くと、私は違った意味でドキドキし始めていた。
< 1,068 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop