君をひたすら傷つけて
 慎哉さんはバッグの中に婚姻届と必要な書類を持って、私と一緒に区役所に入っていくと、天井からぶら下がっている行く先案内を見て、真っすぐに区民課の窓口に向かった。順番票を取って、待っていると、少しの時間の後に番号が呼ばれる。ドキドキしながら、慎哉さんと並んで婚姻届を提出した。

 慎哉さんの名前と私の名前。証人にはリズと篠崎さん。これが受理されると私は慎哉さんの妻になる。

「婚姻届提出をお願いします」

「はい。少々お待ちください」

 窓口の女の人は番号札と一緒に書類を受け取り、中身の確認をする。そして、添付された書類も見て、いくつかの質問をされて、淡々と言われた。

「受理しました。戸籍の記載には二週間ほど掛かります」

「分かりました」

 区役所が混んでいたのもあるかもしれないけど、婚姻届はあっさりと受理され、私は慎哉さんの妻となった。二人で並んで区役所を出ると、無言のまま、駐車場の車に戻った。慎哉さんはカバンを後ろの座席に置くと、私のシートベルトを確認してから、車を動かした。

「結婚したのね」

「そうだな」

「婚姻届を書く時、緊張したのに、提出する時はあっさりとだったから」

「そんなもんだろ。でも、これで雅と夫婦なんだな」

「そうね。子どもも生まれるし」

「さ、夕方まで時間があるから、買い物でも行こうか。夕方には和食の店を予約している。その前に行きたい場所もあるし」

「行きたい場所?」

「ドライブだよ」
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