君をひたすら傷つけて
 試供品と言っても有名ブランドの化粧などだろうし、リズのことだから、私の使っている化粧品も知っている。こういう時に美容に詳しい友人は助かる。私が使う化粧品とは違うかもしれないけど、きっと肌には合う。

「ありがとう。嬉しい。でも、吃驚した」

「勝手に決めて悪いとは思っているけど、俺たちはずっと一緒に住んでいたから、区切りが必要かもしれないと思っていた。でも、ホテルで一泊というのは頭になかった。リズさんに感謝だな」

 それは私も一緒だった。一緒に住んで、『お兄ちゃん』から『慎哉さん』へと呼び方は変わった。一緒に寝ることもキスもする。でも、一緒に居た時間が長いからか、どこか兄妹の名残があった。婚姻届を提出して、正式に夫婦になった。

 区切りが必要だったのは私もかもしれない。

「ホテルもリズが決めたの?」

「いや。さすがにそこは自分で予約しているよ。さ、そろそろ行こうか」

「どこに行くの?」

「そこは決めてない。雅と適当に行くのもいいと思って。どこに行くとか、決めるのは二人で一緒がいい」

 慎哉さんと私が向かった先は行き先のない場所だった。流れに身を任せるように車を走らせ、気になったら、止めて、二人で笑いあう。そんなどこにでもある一瞬のことが幸せを感じさせてくれた。そっと差し出された手に自分の手を重ね、一緒に歩く。

 何度か行ったことのある和食の店で食事をして、その後も夜景を見ながらドライブを楽しむ。そして、身体が疲れないように途中で何度も休みを入れて、リゾートホテルに着いた。

 
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