君をひたすら傷つけて
 緩やかな時間は過ぎていき、私が慎哉さんの腕から離されたのはかなりの時間が過ぎてからだった。妊娠している身体に負担をかけないようにとの思いやりに満ちた優しさは私の事だけを考えたものだった。額に張り付く髪を撫で、慎哉さんは私を抱き寄せた。

「そろそろ寝ようか。身体にキツいところはないか?無理はしてないか?」

「うん。身体は大丈夫。あの、でも、慎哉さんは……私じゃ不満だった?」

「そんなことないよ。幸せだったよ」

「でも…。まだ……だし」

 慎哉さんはひたすら私の事だけを考え、負担にならないように抱いた。そして、最後まで終わらずに抱くのをやめてしまった。責任を取って結婚までしたけど、ずっと一緒のベッドに寝ていたけど、いざ抱いてみたら、何か違ったのかもしれないと心配になっていた。

「本当なら出産が終わってから、雅を抱くつもりだった。でも、どうしても我慢できずに今日、抱いてしまった。だからと言って、別に最後までしなくてもいいんだ。自分の腕の中に雅がいることを実感したかったって言ったら笑うか?」

「一緒に住んでいるし、今日、婚姻届を提出したのに、不安があったの?」

「不安というか、なんて言ったらいいんだろ。ごく普通の男と女で抱き合いたかった。フィレンツェで抱いてから、ずっと、雅が欲しかった。でも、曖昧な関係ではなく、きちんとした関係になってから抱きたかった」

 慎哉さんの言葉の意味が分かる気がした。
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