君をひたすら傷つけて
 それに義哉が帰宅しているとなると親もいるかもしれないと思うと、急に緊張してきた。義哉の病室で一緒に勉強している時に会ったことはあるけど、私がいるからか、荷物を置いたらすぐに帰ってしまうから、殆ど挨拶以外はしたことはない。何て挨拶をしたらいいのだろう。

「あの、家の人がいるのにお邪魔していいのですか?」


 お兄さんは私の心配を和らげるように口の端を上げると優しく微笑んだ。クラスメートとはいえ、一時帰宅した義哉の元に急に私が来たら驚くかもしれない。それに義哉のお母さんにはいい印象を持って貰いたいと思った。義哉の一時外泊のことをお母さんが知らないわけはないし、そう思うと恥ずかしい。

「父も母も居るけど和室に来ないから気にしないでいいよ。義哉も藤堂さんと二人の方がいいだろうし」

「お兄さんは?」

「俺も自分の部屋に行くつもりだよ」

「お邪魔します。」

「ああ。入ってすぐ右の和室に義哉はいるよ。ずっと、藤堂さんを待ってたんだよ」


 私が通されたのはリビングの反対にある和室だった。ドアを開けると何もない和室には布団が敷いてあり、病院から帰宅した義哉は寝ている。気持ちよさそうに目を閉じていて、少し顔には微笑みを浮かべているようにさえ見えた。私は起こすのが忍びなくてそっと、枕元に行く私は座り息を呑んだ。


 義哉の顔が綺麗過ぎる。綺麗過ぎた。

 お兄さんの方を見るとドアを閉めて和室に入ってくるところだった。
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