君をひたすら傷つけて
 昨日まで元気に微笑んでいたのにこんなに急にいなくなってしまうなんて思いもしなかった。勉強の合間に二人で一緒に旅行に行く日を楽しみにしていた。あの時が義哉と会った最後になるなんて思いもしなかった。あの時のキスが最後になるとは思わなかった。


 誰か嘘だと言って。これは悪い夢だと言って。


 お兄さんの声で私は突きつけられた事実で心の中の何かが壊れたような気がした。信じたくないのに目からはポロポロと涙が零れてくる。それが私の頬を滑り落ちていく。


「嘘。嘘よ。一緒に旅行に行く約束したのに。一緒にいるって一番近くにいるって」

 そう言葉を言いながら私は頬を伝う涙が止まらない。拭うことが出来ない人形のように私は身体を凍りつかせていた。私の涙が眠っている義哉の頬に雫を落とす。心が千切れるなんて、そんな簡単なものじゃない。血が噴き出しながら心が砕けていく。胸が痛くて痛くて溜まらず、息も苦しくなる。

 私が一番愛した人を失った瞬間だった。


「義哉。義哉…。なんで?約束したじゃない。寝ているだけでしょ。ね、起きて。起きてよ。私ね、受験頑張ったの。義哉が教えてくれた数学頑張ったの」


 でも、どんなに大きな声を出しても涙を流しても義哉は微笑みを浮かべたまま私の方を見つめることがなかった。こんなに泣いても涙を拭う指さえない。


 人の命というものはこんなに儚いものなのだろうか?


 義哉は私にさよならをいう時間さえもくれなかった。
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