君をひたすら傷つけて
 お兄さんはずっと私の背中を撫でてくれていた。お兄さんの顔を見ると私に穏やかな微笑みを向けている。いつもの優しいお兄さんだった。最初は怖いと思ったけど、こんなにも優しい人だった。義哉の優しいところはお兄さんに似ているのかもしれない。

 でも、優しくて強いから…苦しいのかもしれない。


「お兄さん。ごめんなさい」

「何が?」

「いっぱい泣いちゃった」

「いいよ」


 私が泣いている間、お兄さんはずっと私の背中を撫でてくれていた。私ほどではないかもしれないけど涙を堪えた跡がある。目も少しだけ赤いけど、涙は零してなかった。大事な弟を亡くしたお兄さんは私よりももっと苦しく悲しいかもしれないのに、お兄さんは涙を零さない。


「私…泣きすぎですね。こんなに泣いたら義哉が心配するかな?」

「心配するというより自分がどれだけ愛されていたのかを改めて感じるだけだと思う。私はまだ泣けないから、藤堂さんが私の分まで泣いてくれて嬉しいよ」

「お兄さんはなんで泣けないの?」

「まだ今は泣けないって感じかな。覚悟していたこととはいえ辛い。でも、今はしないといけないことがいっぱいあるんだ」

「辛いなら泣けばいいのに」

「ああ。泣けたらいいのにね」
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