君をひたすら傷つけて
「ご両親は?」

「奥の部屋に居るよ。母がさすがに参ってしまってね。義哉の傍を離れたくないと。でも、ずっとだから私が帰ってくると同時に母を休ませた。母も一人には出来ないから父が付いている。これから葬儀も控えているから、両親が動けない分、私が動かないといけないんだよ」

 人が亡くなると色々なことをしないと行けなくなる。お兄さんは自分の悲しみを抑え込み、物事を行っていくのだろう。責任感が強いからこそ、泣く時は全てが終わってからなのかもしれない。

 そして、一人で泣くのだろう。私のように声を出すことなくひっそりと。


「その時は私が背中を撫でましょうか?」

「藤堂さんの前で泣いた時は頼もうかな。」


 そう言ってクスッと笑う兄さんの優しさに触れながら、義哉の顔を見つめると、さっきよりもしっかりと見つめることが出来た。眠っているみたいに穏やかな顔で苦しんだような様子はない。


「義哉は苦しくなかったかな」

「眠るようだったよ」


 義哉が最後に苦しまなかったことだけが良かったと思う。ずっと苦しかったのかもしれないけど、私の前で苦しそうな姿を見せたのはあの買い物の時一度だけ。それ以外はいつも穏やかに微笑んでいた。それは義哉の強さだったと思う。そして、一人でなかったことがよかった。
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