君をひたすら傷つけて
 受験が終わったら義哉の病室に行くつもりで私はお母さんには遅くなるというメールだけはしていた。でも、ここに来てからずっと泣いていたので今が何時かも分からない。連絡を入れているとはいえ、そろそろ帰らないとお母さんが心配すると思う。

「大丈夫です。一人で帰れます。駅までの道を教えて貰えますか?」

「それはダメだよ。藤堂さんを一人で家に帰したら私が義哉に怒られる。ちょっと待ってて、義哉を一人に出来ないから父を呼んでくるから」

 お兄さんはそういうと和室から出て行った。和室に一人残された私はゆっくりと義哉の頬に手を寄せた。既に冷たくなった頬を温めてあげたいと思った。少しでも寒くないようにと思い、手の熱を伝えさせる。ひんやりとする義哉の肌は冷たさはあるものの眠っているようにしか見えない。

 昨日までは一緒に話して、一緒に数学を解いて…。苦しいはずの受験勉強も義哉と一緒だから楽しかった綺麗な澄んだ瞳は私を映すことはない。

 義哉はこの世に居ない。この冷たい頬が温もることはない。綺麗な微笑みを浮かべたまま眠る義哉の冷たい唇に自分の唇を重ねた。

 昨日のキスとは全く違う冷たいキスだった。


 これが最後のキスになる。


「義哉。ずっと好き。ずっと好きだから…」


 そう耳元で囁き、私はもう一度義哉の唇に自分の唇を重ねた。
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